インタビュー
五つ星お米マイスターと語る お米と海苔のおはなし 【後編】
隅田屋 片山真一さん
㊁伊藤海苔店、四代目 信吾です。
前回に引き続き「隅田屋」片山真一代表(五つ星お米マイスター)にお話を伺い、色々と教えていただきました。
有名なおむすび屋さんやお寿司屋にもお米の炊き方などの指導をされている片山さん。
お米のプロとして海苔についてもご考察いただきました。
海苔とお米の相性について
伊藤
私がいつも提唱しているのは、おむすびにするときはおむすびを握ったらそのまま海苔で巻いて手巻き寿司のように海苔を「パリッと」食べるのが美味しい、温かいご飯を包むように巻いてサランラップなどで蒸すように「もちもちっと」させて食べるのが美味しいとお客様にもお伝えしていまして、お米屋さんの観点からこれについてご考察をいただきたいなと思っていますがいかがでしょうか?
隅田屋代表 片山真一さん 軽快なトークで色々とご説明をいただきました
片山
ご家庭やお店ですぐ食べれるようなシーンであれば、ライブ感とともに海苔を「パリッと」食べていただくのは非常に美味しいと思いますが、お米屋さんの立場からいうと、後者の海苔を「もちもちっと」させる食べ方の方が正解と言えると思います。
海苔がパリパリで口の中で混ざらない状態だとご飯粒の粒感が感じられないんですね。別のものを食べているようなイメージかな。お米は口の中で咀嚼すればするほど甘みが増して美味しくなるので、良く咀嚼させたいんですね。
だから海苔がお米の水分を含んでモチッとしている方が、おむすびのお米と海苔の相性としては良いのではないでしょうか。
伊藤
そうですね、お米屋さんのお立場からするとそういう答えになるんですね。
面白いです。
片山
咀嚼はとても大切でおにぎりに使うお米は粒感が感じられるくらい食感が良いように炊いてくださいとよくお伝えしていますね。
伊藤さんね、ご飯っていうのは僕は主食ではなくて究極の副食だと思っているんですね。
例えば、海苔だけ食べると磯の香りはいいけれども雑味が少し残るんだよね。だからそれを打ち消してくれるのが粘り気があるお米だと思うんですよ。あとはご飯だけで食べるのは味気ないよね、お漬物・お味噌汁と一緒にご飯を食べるから美味しいわけじゃない。だから他のおかずなんかもそうだけど日本人は”口中調味”という独特の食文化を持っています。
だからあくまでもご飯は主役ではなくて「海苔を楽しむためのご飯」なんて言い切っちゃってもいいんじゃないかなって僕は思ってる。
片山さんの炊飯教室のご様子 facebookから頂戴いたしました
伊藤
確かに!栄養学的にも海苔とお米はメリットがあることは知られていますよね。
海苔はビタミンB1が多く含まれていて、ご飯の炭水化物を効率よくエネルギーに変えてくれる働きを持っていますよね。
片山
古式精米の時にもお話したように、お米の旨みや栄養の多くが白米の中ではなく、玄米の周りにある精米する時に出る米糠(こめぬか)に入っているんですね。そこに摂りたい栄養素が多く入っているわけですが、この栄養素をおかずなどで補っているわけですから、現代の豊かな時代にわざわざ玄米を食べる必要はないということですね。
玄米にもビタミンB類は多く入っていますね。
伊藤
海苔には食物繊維も多く含まれているので、少量しか食べないものですがお米との相性はとても良いと思います。
昔ながらの食べ方の海苔を巻いたおむすびは、栄養学的にも理にかなっているのだと知った時、日本の食の深さというか面白さを感じました。
美味しいお米の選び方と炊き方
伊藤
お米の選び方と炊き方。これこそ皆さんが一番知りたい部分だと思うんです。
まず美味しいお米の新米って秋口のそろそろだと思うんですが。
片山
気をつけてね。新米っていうのは美味しさのバロメータではないね。
新米は美味しくないんですよ。含有水分量が多いから採れたては何を食べても一緒、プロがどれを食べてもそうしか感じない。
新米は余分な水分が飛び始めた1月・2月頃が一番美味しい時期なんですね。
伊藤
知らなかったです!
片山
お米っていうのは主食なんで、みなさんが考えられている常識と本当のことがだいぶ乖離していることが多いんですね。美味しいお米って一概に言っても、皆さんの好みっていうのにはかなり個人差があるじゃないですか?硬めのお米が好きな人に、柔らかいお米出しても絶対に美味しいって言わないですよね。
だから素材の良し悪しよりも炊き方、つまり炊飯器選びっていうのがとても大切だと私は考えていますし、色々なところで炊飯教室をやっているのもそれが理由の1つです。
伊藤
確かにそうですね。海苔はそのまま食べれますが、お米は必ず炊いてから食べますからね。
片山
だから炊飯器選びってものすごい大事なんですよね。
伊藤
うちも久しぶりに炊飯器を買い替えました!5万円くらいだったかな、象印かタイガーかどこかの。
片山
いいんじゃないでしょうか!
三大メーカー「タイガー・象印・パナソニック」この三社は炊飯研究所をそれぞれ持っていて、各メーカーの”美味しいと感じる味”というのが定義付けられていて上位モデルになればなるほど、そのメーカーの特徴が顕著に現れるんですね。なので、どんなに高い炊飯器を買ったとしても、もともと自分の好みに合わないメーカーの炊飯器だったら意味がない。
だからミドルレンジの炊飯機で4・5万円程度のまあまあ美味しい平均的なご飯の味を再現できるものを選んだほうがいいよってこと。あとは内釜が土鍋系であればモチモチした食感・アルミ鉄鍋系であればしゃっきりした食感。
特に柔らかめ・硬めの好みに合わせて選ぶのが良いと思いますよ。
片山さんの炊飯器の品評会のご様子 facrbookから頂戴いたしました
伊藤
ちなみにおむすびに合う炊き方やコツなんていうのはあるんでしょうか?
片山
ご家庭で作るということでいうと、基本的にやはり握りやすいほうが良いよね。熱々のご飯を握った方がいいんじゃないって思いがちですけど単純に熱いですし、炊き上がりすぐの状態は水分量が多いため握りにくいんですね。
炊き上がってからできれば一度桶またはボウルに入れてしゃもじなどでかき混ぜながら余分な水分を飛ばすことをお勧めします。冷ますことによって炊き立てのお米の外側が空気に触れて皮膜を作ってくれるので食感が良くなるんですね
また、ピチッと粒感が立ってハリが出てくるんで握りやすくなるんです。人肌くらいに冷ますのがポイントと覚えておいてください。
伊藤
熱いうちに握る方が美味しそうっていうイメージですけどね。意外でした。
片山
プロのおむすび屋さんに言わせるとね、炊き立ての方が手につけたお塩も馴染むし余計な塩味も飛ばしてくれるから美味しいおむすびになると。
でもね、それはプロのやり方であって、家庭でやる時には上記の方法が簡単で失敗がないやり方・炊き方がよいと思います。あとは余計なことをしないこと、炭を入れて炊くなんて一時期流行ったけど、あれは”昔の炊き方”。古米しか手に入らなかった時代に米の臭みを消すために炭を一緒に入れて炊いたことはあったけど、今は精米されてから時間の経っていないお米でしょ。
余計なことはしないでシンプルに炊く。これが美味しく炊くポイントかな。
お米の保存方法
伊藤
海苔でもよく聞かれる保存方法、お米も一種の乾物ですよね?
お米の保存方法についてぜひ伺いたいのですがいかがでしょうか?
片山
海苔は湿気が大敵ですよね?ですけどお米の場合、湿度は味方なんです。お米は吸水性が高いもの、水分を吸えば吸うほどお米って柔らかくしなやかになるんですね。最終的にお水に入れて炊いて食べるものですから、ある程度湿度条件が合ってカビが生えなければしなやかな状態で保存しておくのが最高の状態なワケです。
要はあまりにも過度な乾燥状態は避けてほしいということ。なんでかというとお米が割れてしまうから。
伊藤
確かにシリカゲルなどの乾燥剤も入ってないですよね?
片山
お米の袋には空気穴があって、外の空気と常に接してるわけですね。なのでお米の袋のまま入れておくと冷蔵庫内は乾燥していますからお米が割れる原因になってしまいます。なのでペットボトルや瓶などの密封容器に入れて野菜室に置いておくのが一番正解です。
よく米虫が沸くと言いますよね。あれもお米の中にいる虫が温度が上がって孵化するので虫が湧くので冷蔵庫の中に入れておけば大丈夫なんです。
伊藤
そうなんですね!とても参考になりました!
前編・後編にかけて学びが多かった内容となりました。取材中にも地元のお客様が多くいらっしゃってお買い物をされていく様子がとても印象的でした。
ちょうど片山さんのお母様もいらっしゃったので、当店が両国にあった頃のことや隅田屋さんの歴史など深くお伺いする貴重なご機会をいただきました。
代々、お米の美味しさをお伝えするプロとしてのおはなしはとても良い経験となりました。改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。
本日取材にご協力いただきました隅田屋さんの情報です。
株式会社 隅田屋商店
東京都墨田区東駒形1-6-1
最寄駅 蔵前駅
店頭またはオンラインショップからお買い求めいただけます