海苔の美味しい食べ方
海苔のオモテとウラと 太巻き寿司のお話し|創業100年の老舗海苔店四代目が教える 太巻き寿司と太巻き祭り寿司
㊁伊藤海苔店、四代目 信吾です。
太巻き寿司。
みなさんも巻き簾を使って一度はチャレンジされたことがあると思います。
その時のこと、覚えてますか?
海苔のオモテとウラ、あれ?どっちに酢飯を敷くんだっけ?
今回は、千葉県の郷土料理の1つである 太巻き祭りずしを継承されている 「千葉伝統郷土料理研究会」の三橋 早苗先生にも少しお話を伺ってまいりました。
ではどうぞ!
目次
- 海苔の表と裏ってあるの?
- 太巻き祭りずしとは?
- 太巻き寿司はどうやって巻くと綺麗にできる?
- 太巻き寿司にはどんな海苔が良いの?
海苔の表と裏ってあるの?
海苔には
・ツルツルした面
・ザラザラした面
がありまして、みなさんどちらが裏表かわかりますか?
答えは
ツルツル=オモテ
ザラザラ=ウラ
です。
裏がザラザラな理由は海苔の製造過程のうち、海苔を四角くするときに巻き簾のような形状の「海苔簾」を使っているからなんですね。
海苔簾は昔は木製でしたが、現在は衛生面や乾燥機にも耐えられる素材ということで樹脂製のもの(※ケミノリスと呼ばれています)を使っています。
三番瀬の海苔干場の様子 海苔一枚一枚が巻き簾のようなものにひっついている ©️浦安郷土資料館
現在の海苔簾も見た目は木製のものとあまり変わりませんから、簾に触れていない方の面はツルツルになり、触れている方はザラザラになります。
太巻き寿司を作るときにも、裏(ザラザラ)面に酢飯を敷いてください。
表面はツルツルですから、そちらの方が太巻きの見えている部分が美しく見えます。
また海苔は、海苔漁師さんの手によって作られる時に、全国で大きさの規格が決まっています。全形(全型)は、 縦21cm×横19cm。
太巻きを作る際には、この縦と横の方向にも注意をしてください。
太巻き祭りずしとは?
ではここからは、千葉県の郷土料理 太巻き祭りずしを継承されている「千葉伝統郷土料理研究会」の認定講師 三橋早苗先生 にお話をお伺いしてみましょう。
築地魚河岸スタジオで毎年開催される【太巻き祭りずし教室】 一番右の方が三橋早苗先生
伊藤
父の代からいつも御海苔をお使いいただきましていつもありがとうございます。築地でもご一緒に教室を企画させていただき、もう5年ほどですかね。最近はなかなか開催が難しく残念ですが…
三橋
信吾さんが小学生か中学生くらいの時に、お父さんが小学校のPTA役員をされていてその時にも保護者会でのお母様たちとの教室などを一緒に企画したりしてました。
伊藤
そうなんですね!三橋先生と「太巻き祭りずし」の最初の接点はいつだったんでしょうか?
三橋
学生時代に、調理学の授業で龍崎英子先生(千葉伝統郷土料理研究会主宰・千葉県立衛生短期大学元助教授※現在の千葉県保健医療大学)に出会ったのがきっかけです。千葉伝統郷土料理研究会は今年で40周年になります。
太巻き祭りずしは房総半島の旧上総国(現在の市原市から東金市周辺の千葉県中央部分)の農家に伝わる伝統料理で、独特の模様をもつ太い海苔巻きです。江戸前の海苔・保存の効くかんぴょう・魚を加工した桜でんぶ。
これらのいつも食べている身近な食材を使って農家の方から生まれた千葉の郷土料理を伝えたいと、龍崎先生が昭和57年に千葉伝統郷土料理研究会を卒業生の栄養士たちとともに立ち上げました。
伊藤
西の祭り寿司、岡山のばら寿司に対抗して東の祭り寿司として龍崎先生がご紹介されたのが最初だとか。
三橋
そうなんです、冠婚葬祭の時に村の名人(男性)が巻いて振る舞っていたらしいのですが、第二次世界大戦下で男手がいなくなり村の女性たちがこの太巻きを継承し、女性らしい模様などが次々と誕生したようです。
実はこの作り方は、人から人へと伝えられた口頭伝承の文化であり、龍崎先生は村の男性や女性などに作り方や模様などを教えてもらい、これらの写真を撮ったりと文献としてまとめられました。
伊藤
模様についても口頭での伝承だったということですか?
かわいいパンダ柄や季節に合わせた花などを表した太巻きずし 金太郎飴のように切った箇所で顔が違うのがおもしろい
三橋
模様も家庭によって作り方が違ったりと、これといった「決まり」はなかったんだと思います。基本的には龍崎先生が見聞きした模様を口頭で伝承したものを他の講師の方々と一緒に、寿司飯の重さや海苔の寸法を数字で表して本にまとめたんですね。私はその中でも得意なイラストを描かせていただきました。
ルーツは紀州の方の漁師さんが持ってきた高菜で包んだ目はり寿司や大きなおむすびの中に芋茎を煮たものを入れたものを切ったら模様っぽくなったのでそれをヒントに工夫して出来てきたというのが始まりだと言われていますね。
太巻き寿司はどうやって巻くと綺麗にできる?
伊藤
私もご一緒した時に巻いて見たことがありますがまるでパズルのようですよね。覚えるのは大変ですが、先生方はみなさん自然と作っているのを覚えてらっしゃるんですね。
見るのと実際作るのは全然違うと思いますが、うまく作るコツはありますか?
三橋
太巻き祭りずしを作るときには初めに寿司飯の分量を計り、海苔もすぐ使えるように先に切っておきましょう。
太巻きでいうと酢飯は全体に敷きすぎないことでしょうか。全形海苔1枚に対して1本出来ますから、目安の量は1合の半分大体160gくらいだと思います。あまり多いと巻きづらくなってしまいます。海苔の上下には必ず余白を空けることも忘れないでください。太巻き祭りずしはこの2倍くらいの酢飯の量を使いますので、巻くのはかなりコツが入ります。
伊藤
普通の太巻きよりも卵で巻いたりと太巻き祭りずしはボリュームがあって具材も色々なものが入ってて味のバリエーションが嬉しいですよね。
文字の場合は味付かんぴょうで表現することが多く、周りには1つずつ海苔を巻いている
かわいい虎の輪郭・虎柄はかんぴょうの周りに海苔 海苔をたくさん使う巻き寿司は周りは厚焼き卵の方が美味しい
三橋
昔ながらの食材だけではなく、色々な食材を使って華やかで美味しくて楽しいお寿司にすることを先生も生徒も楽しみながら作っています。今年の干支の虎柄の耳と鼻先の部分は魚肉ソーセージなんですよ。文字を書くときはカンピョウを使うことが多いです。
伊藤
私は、薄焼卵と紅生姜で作った「薔薇」の柄が一番好きですね。
太巻き寿司にはどんな海苔が良いの?
伊藤
ちなみに御海苔はどうでしょうか?選ぶコツなどは何かありますか?
三橋
口溶けが良いような上等な御海苔ではなく、少し厚みがあって丈夫な品の方がしっかりと巻くことができます。特に太巻き祭りずしですと、しっかりとした海苔がおすすめです。
海苔でパーツを包むことが多いため、1本分で海苔を全形で3枚分ほど使う巻き方もある
伊藤
当店ではお寿司屋さんなどの業務用にお使いいただく「瀬戸内海産」もしくは「有明海 熊本県産」、商品でいうと寿司はねのり40枚入が太巻きに適している御海苔だと思います。
三橋
上等な口溶けが良い御海苔は、どうしても海苔の繊維が柔らかいのでバリバリと破れてしまったり、巻いた後にも海苔がうまく付かないことが多いようです。かと言って、あまりにも硬い海苔ですと子供は噛みきれないこともあるので選ぶ際には注意が必要です。
太巻き祭り寿司の中でも「四海巻き」などの海苔をたくさん使う柄などはとても噛みきれないようなことになってしまいますから、程よい御海苔を選ぶのはなかなか見た目だけでは判断が難しいため、伊藤さんのような専門店にお願いするようにしています。
伊藤
三橋先生ありがとうございました!
三橋先生が認定講師を務める千葉伝統郷土料理研究会のホームページはこちら!
太巻き祭りずし教室をはじめ、築地では色々なイベントを開催しています。
詳しくは築地場外市場公式ホームページをご覧ください。