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海苔の値上がりいつまで続く 後編1章|創業100年の老舗海苔店四代目が考える 日本の海苔の未来

日本の海苔の未来

 

海苔の値上がりいつまで続く 後編1章|創業100年の老舗海苔店四代目が考える 日本の海苔の未来

 

前編を通じて、日本産海苔の生産や販売の状況を数字を交えてお伝えいたしました。

ここから後編では、訪問して見聞きした有明海の現状と今後の日本産海苔の未来について綴っていきたいと思います。

<<前編1章はこちらから
<<前編2章はこちらから


 

2025年2月初旬、佐賀-福岡-熊本を4日間かけて関係者の方々にお話しを伺いに廻りました。

2月は本来であれば有明海の二期作目の最盛期でありますが、海の栄養状況が好転しないため網を張ったのが1月の下旬になり、かなりの遅い二期作目のスタートとなりました。

海苔の漁師さんたちは、潮の満ち引きなどで不安定な生活をされているため、あえてアポイントなしで関連会社で製造している手作りのお菓子だけ会社やご自宅にお渡しに伺ってまいりました。ご対応いただいた海苔関係者の皆さまありがとうございました。

そのため、陸地からの漁場の見学と写真撮影、また今回はお二人の研究者の方にアポイントをとり、お話しを詳しく伺ってまいりました。

2025年2月初旬、日本海側が大寒波で大雪に見舞われている最中、降り立った佐賀空港でも雪がちらついていました。この辺りでは雪自体が珍しいそうで、レンタカーもノーマルタイヤだったのでヒヤヒヤしましたが、4日間370kmを佐賀から熊本まで走って色々と見させていただきました。

行きの飛行機は窓側で、有明海を上空から見下ろすことができて、こんな写真を撮ることができました。



飛行機からiphoneで撮影した佐賀県上空写真

四角く黒く見える部分が海苔の養殖施設です。これが佐賀から熊本まで展開されていますので、三県にとって有明海での海苔産業がいかに大切かが一目でわかりました。

到着当日は1泊福岡の柳川で過ごしたのち、本降りになった雪の中、佐賀県が試験研究を行っている佐賀県有明水産振興センターに伺ってまいりました。

 

訪問記 佐賀県有明水産振興センター

 

佐賀県有明水産振興センターでは、海苔養殖・貝類の増養殖・資源管理型漁業などの研究や漁場の環境調査・漁師さんの活動支援や後継者育成など水産業に関わるお仕事を県職員さんがされています。



佐賀西部小城市の芦刈という漁場の近くにあります。展示館もありましたがそちらはスルー

今回はノリ研究担当係長の野口浩介さんにお話しを伺いました。

まずは直球にこの栄養がない有明海の海況についてのお話しを最初に伺いました。するとこの不作の原因は赤潮であるということをお話しいただきました。

「海苔よりも先に、プランクトンが栄養を食べる能力が強いため、いまユーカンピアという植物プランクトンの発生が目立っているのが現状です。赤潮については5年前くらいから佐賀大学の木村先生・吉田先生とプランクトン研究や海苔全般の研究を、九州大学の山口先生と一緒に海の潮の流れなどを共同研究しています。
有明海の場合、筑後川・早津江川の2つで有明海に流れ込む他の河川を合わせたくらいの大きな流入量がありまして、筑後川の流量は海苔の漁期中は最低で40tと決められていますが、雨が降ると水の流量がどっと上がる、そのため雨がまとまって降ると海にいる海苔にとっては邪魔なプランクトンも流してくれるんですね。
だけど近年の海苔の生産期は本当に少雨のため、11月から3月にかけては降雨量が特に少ないんです。年間通して同じくらいの雨量なんですけどね。夏時期にざーっとまとまって降ることによってサルボウなどの二枚貝が生息地域が淡水によって死んでしまって、海の循環がうまくいかなくなっているんですね。」



ノリ研究担当の野口さん ごめんなさい、ちょうどお顔が見えないタイミングで撮ってしまいました…

「西側の鹿島などではあまり大きい河川がないため、元々この地域では赤潮が停滞しやすく、なんとか赤潮と付き合いながら生産を行ってきた経緯があります。秋芽と言われる時期は昔は良い海苔が獲れていましたが、この地域の二枚貝の死滅によって海が循環せず、プランクトンを食べる生物がいなくなり赤潮が起こりやすくなっているんです。
これからも気象庁の予測では、気候が変わりつつあり佐賀県・福岡県地方では夏場の降雨量が増え、台風も大型化、だけど台風の上陸頻度は進路が変わったことにより減り、秋から冬の間の降雨量は減ると予測されていて、海苔の生産にとっては悪い状況ということなんですね。」



佐賀 白石地区の海苔養殖の様子 茶色く見えるのが海苔 肉眼で見るともっと黄金色でした



色落ちした海苔を乾燥させるとこんな感じで真っ黄色になります

2024年12月にはたった12mm、2025年1月は16mmしか月間で雨が降らなかったそうで、2月1日にも20mmのまとまった雨が降ったそうですが思った以上に筑後川の水が流れてこなかったそうでプランクトンを押し流すほどの流量ではなかったそうです。

つまり、自然環境の変化による、夏場の極端な大雨で有明海の生態系がアンバランスになり、さらに海苔の漁期中の雨の少なさが海苔不作の原因だと野口さんは捉えてらっしゃいました。

「一部の海苔漁師さんは諫早湾のことが原因だとも言われているようだけどここ数年の不作はそれだけが原因ではないと思っています。最高裁判所で非開門という判決が出た以上、声をあげていくこと自体は重要なのですが、次の漁期はまたすぐにやってくるので待ったなしなんです。だから新しい策を考えるしかないんです。
これらの事象は人間が与えてきた自然への人的な影響であるんですよね。大森の海苔ふるさと館に行ったことがありますが、昔の羽田であんなに海苔が取られたのは全然いまの姿からは想像できませんよね。このような自然の環境の変化に対して、海苔の産業がある以上、この状況を乗り越えるためには我々が研究して新しい方法を考えなければならないと思っています。」

この状況を打開するために、今現在は大きく2つのことに取り組んでいるそうです。

1. 海苔網の色上げ

10月からの育苗期(海苔の幼芽を育てる期)はいつもですと水温が下がる頃から開始するのですが近年の温暖化で高水温の場合が多く、海苔網が以前ほど万全な状態ではないことが多いのです。育苗が失敗すると海苔の幼芽が色落ちし、海苔が硬くなり海苔も伸びなくなり、美味しい海苔はできません。

「去年も暑かったですよね?ですから育苗期も思うように上手くはいかなかったんです。栄養不足になった海苔っていうのは、正常な細胞の原形質が萎縮してしまい旨さが損なわれてしまうそうで、色素も分解されて色も薄くなっていきます。水分が増えるため乾きにくく冷凍庫での保管の際に水分が残り、凍ってはじけて細胞が傷つけられるという悪循環にも見舞われます。」



正常な細胞に比べ、栄養不足の細胞はスカスカなのがわかる。水分も多いそう(提供:有明水産振興センター)

「海苔の一番大事な育苗期がうまくいかなければ、その後どんな良い海況の海に網を入れても良い海苔はできない。それだけ育苗は大事。だから人為的に海苔を良い状態にしてあげようと思うんです。」と語っていました。

二期作目の冷凍網についても10月に育苗を行い、その名の通り乾燥させてから冷凍庫へ保管して眠らせておきます。一度陸にあげた網をそのため海苔の栄養剤(硝安=硝酸アンモニウム)を入れたプールに2日間ほど漬けておいておくと、海苔の色味が回復するそうです。

プールに入っている栄養のレベルは、DINで7μあったら海苔が育つと言われている数値のおよそ120倍=850μの濃度にして試験しているそうで、これは令和5年に試験的に芦刈の試験網で始めており、色がない海苔が2日で業務用などで使えるレベルの海苔にまで色上げができたと言います。



プールに入れることで色調が戻った実験の結果の様子(提供:有明水産振興センター)

つまり色上げをすることで冷凍網の育苗の底上げをして、1月からの海況が良くなることを祈って網を張り替えてベストな状態で最盛期の漁を迎えようという考えです。

また既存の設備などでできそうなのですぐ現場レベルに落とし込むことができて再現性もあり即効性がある対策であると考えられています。又、栄養剤である硝安の使用量についても海に施肥をするよりももっと少ない量で実施ができ、環境の保全にも効果が期待できるそう。

さらに、海苔網を海に張った生産期にも、海上で、できるだけプランクトンに栄養を使われないようにする観点でも、研究を進めているそうで、早めの実用化に向け、海苔産業のために活かしていきたいとお話をされていました。

2. 牡蠣養殖の推進

もう一つが牡蠣養殖の推進です。仙台松島の牡蠣・広島の牡蠣、全国的にも有名ですが、これらの産地では海苔も養殖しています。穏やかな海で育てるというのが共通点でしょうか。

「二枚貝を放流して増やす努力も一生懸命してきたのですが、先ほどもお話した通り豪雨などの影響であまり良い結果に至っていないんですね。ただね、その中でも1種類だけ個体数が減っていない二枚貝がいるんです。日本でも有明海にしかいない住之江牡蠣です。」



クラウドファンディングMakuakeでも販売されていました

(参照:https://www.makuake.com/project/sashiminori02/)

その昔、有明海では明治時代の養殖産業で最も盛んであったのはこの住之江牡蠣の養殖業であったそうで、海苔養殖が始まって、昭和から海苔の方が儲かるとされてから牡蠣養殖は衰退したという歴史があり、もともと有明海に生息していた生物であり、淡水にもものすごく強い二枚貝であるようです。

「すでに一部の漁場では養殖を開始している漁場があり、海苔の養殖場を牡蠣の養殖施設に移行したところもありまして、昨年からは販売も行われ市場で流通しています。」

「まず牡蠣の養殖を行うことで期待されるのは赤潮の原因となるプランクトンの増殖の抑制です。牡蠣は二枚貝であり、海苔の成長に邪魔な植物プランクトンを牡蠣の栄養として食べてくれます。プランクトンは海の一次生産者として、食物連鎖を支えてくれている存在ですので、一定数は必要だと思っています。
やはり二枚貝が減少したという状況が、有明海にとって良くない状況だと思うんです。海苔師さんにとっても、海苔養殖だけが稼業ではなく、牡蠣の養殖業が新しい稼ぎ頭になってくれる可能性もありますよね。牡蠣専業で頑張っていく漁師さんが出てきても良いのではないかと思っていまして、海苔だけに用意された漁業権ではないので、牡蠣の漁場に転換することもさほど難しくないのではと思います。さらに牡蠣養殖が盛り上がれば盛り上がるほど、海苔も良くなる可能性を秘めていますね。」

先日展示会でお会いしました広島福山の田島(たしま)の海苔生産者さん、マルコ水産さんの兼田さんも海苔養殖がメインで事業をされてらっしゃいましたが、牡蠣の養殖もしていますとおっしゃっていたのを思い出しました。

 


 

野口さんのお話を聞いていて、海苔に対する熱意がもの凄く伝わってきました。印象的だったのが、「私は海苔が好きというよりかは、有明海の漁師さんが好きなんです。彼らの笑顔が見れたら嬉しいなと思っていつも頑張っています。」というお言葉でした。

昔、有明海に自生していた住之江牡蠣を本格的に復活させ、海苔養殖の状況改善と有明海再生を図るというストーリーもとても素晴らしいと思いました。

次章では佐賀大学農学部で藻類の研究をされている木村准教授のお話しです。

 

美味しいお海苔といえば! 築地 伊藤海苔店

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