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有明海の不作はなぜ起きた 50年に一度の記録的不作についてまとめてみた 【前編】|創業100年の老舗海苔店四代目の海苔生産地訪問記

海苔生産地訪問記

 

有明海の不作はなぜ起きた 50年に一度の記録的不作についてまとめてみた 【前編】|創業100年の老舗海苔店四代目の海苔生産地訪問記

 

㊁伊藤海苔店、四代目 信吾です。

私が海苔屋の息子として生まれて以来、今までに経験のない不作が、2年前の2022年秋からの漁期に起こりました。

これが海苔業界を震撼させました。

そして2023年から2024年にかけても状況はあまり好転せず前年度同様の不作になりましたので更に厳しい状況であります。

当店では長年のパートナー協力会社さんの全面的なご支援もあり品質が良い海苔原料を仕入れることが出来ました。その仕入れの値上げ分としてお客様へと商品価格や内容の変更をお願いさせていただき、不作の中でもなるべく良品質でなんとか海苔の商売をできるだけの形に整えさせてご提供させていただいております。

しかし周りの海苔店さんの中には、創業から100年以上続く老舗さんでも海苔事業から撤退されたり、後継者さんがいらっしゃらないお店は閉業されたり規模を縮小されたりと、今までにない事態に業界が混乱している状況であることは間違いありません。この状況はテレビ・ネットニュースなどで、海苔が「不作」「値上げ」というニュースをご覧になった方も多かったかと思います。

なぜこのような状況になったのか、そして日本の海苔の未来はどうなるのか前中後編の三章に分けてお話しして参りたいと思います。

前半ではまずデータで海苔の養殖業についてお話しできればと思います。

少し長編になりますので、じっくりご覧いただければ幸いです。

 


 

 

海苔という海面養殖業について

 

海苔の生産というのは日本の漁業の分類でいうと、海面養殖業にあたります。

漁業全体では海面漁業、いわゆるお魚の産業が約60%を占めており、こちらがメインと考えられているかと思います。

農林水産省による令和3年の数字では、漁業全体の生産額が1兆3178億円に対し、海面養殖業が4515億円。そのうち海苔の生産額は681億円ですので、漁業全体の5%の産業ということになります。

わかめ・昆布はそれぞれ70億から100億円程度になりますので海苔は海面養殖業の海藻類の中でも一番のシェアを誇っている産業です。同じ海面養殖業で言うとホタテと牡蠣を足したくらいの生産額、農業で言うと同じくらいの規模とされるのは豆類の生産額です。

例年、北から南までいろいろな地域で海苔生産が行われております。その中でも有明海が全国の海苔生産の60%を支えており、続いて瀬戸内海の生産が多くなっております。しかし、年々生産者の高齢化や温暖化などによる海況の変化などにより、生産量は全国的に満遍なく減ってしまっているのが現状です。

生産量が年々減っていくものの、品質は高品質で推移しているというのが近年の傾向でしたが、2022年-2024年についてはこの状況が一変し、ただでさえ減少傾向にあった海苔の生産量が今年はその約半分ほどで漁期を終えました。特に有明海は少雨の影響による海の栄養不足が深刻でした。

私もこれほどまでの不漁は経験したことがございません。

お世話になっている、海苔の買い付けを行っているお師匠さんも50年前に1回こんなことがあったが、その状況よりもひどいかもしれないということで今年ご引退を決意されました。

もともとは「運草(うんぐさ)、博打草(ばくちぐさ)」と呼ばれていた海苔ですが、近代の技術や研究結果をもってしても、自然変化には勝てないというのが現状の海苔生産業の状況です。

 

秋芽網海苔

 

「秋芽網海苔」と業界内で呼ばれる11月前半から12月後半にかけて有明海で生産されている海苔については、その年の新海苔として従来からお歳暮用などの贈答需要に応えて参りました。一番摘みのものは特に香りがよく、小草(こぐさ)で、甘みもあり、口溶けも良いと、いう全てにおいて秀でた海苔と私も評価しており、生産量も多くないことから例年高値で推移しており、高級海苔として世の中に出回っています。

しかし特にここ5年ほどは温暖化の影響もあり、海の海水温が海苔の生育に適した水温に十分に下がり切らず、海苔の収穫が始まる時期が年々少しずつ遅くなって来ている傾向にあり、新海苔をお歳暮に発送されたいお客様にはお待ちいただくことが多くなりました。そのため、お歳暮が発送される12月初旬には間に合わないというタイミングが多々あり、その都度お客様にお待ちくださいというご案内をさせていただいておりました。

当店ですと、一番上のランクの御海苔がそれにあたります。残念ですが、現在は入荷が難しいため販売を休止している商品になります。



販売休止中の有明海産 一番摘み 極み

2022年の秋芽については前述の通り少雨の影響で海の栄養が足りず、例年に相応しい「秋芽海苔」が入札の会場にはほとんど出品されず、佐賀県の海苔の品質を競う「佐賀海苔 一番」の出品も実施以降初めて中止という事態になりました。

参考リンク
佐賀新聞「今季の佐賀県産秋芽ノリで最高級品質に届かず 赤潮影響、食味検査を中止」
※リンク切れの可能性もございます、ご了承ください。

 

10月頃から雨が少ない状況で苦戦しているというお話しを海苔の漁師さんからも伝え聞いておりましたのでこの頃から少し心配ではあったのですが、1月から生産される「冷凍網海苔」で例年生産量も挽回しておりましたので、業界的にも対策を考えている同業者も少ないように感じておりました。
有明海以外の生産地でも全体的に少雨の影響などで海に栄養が少ない状況でありましたので、全国的に生産は奮っていないという状況でありました。

 

冷凍網海苔

 

「冷凍網海苔」と業界内で呼ばれる、秋芽網海苔を途中まで育苗(いくびょう)させた海苔網を冷凍庫に入庫し、もう一度1月に一番摘みを収穫できるように工夫し生産する海苔のことを指します。秋芽網海苔の一番摘みと同様、旨味・甘み・歯切れなどが優秀で、当店でもこの頃に入札会に出品される海苔を先代も好んでお客様に提案させていただいておりました。

この「冷凍網海苔」は収穫時期も長く、海苔漁のいわゆる本番といったところです。

そのため今回の不作については海苔漁師のみなさんも口々に「こんなことは初めてだ…」とお話しされてらっしゃったように、有明海の栄養不足について深刻な様子でした。

下の写真は海上で生のりを生育している様子です。

海苔網と言われる養殖施設を海上に海苔漁師さんが張り込み海苔を生育させていきます。

この海苔網には海苔の種(培養したカキ殻で培養された糸状体から放出された胞子)が付着しており、海の栄養を享受して海苔が成長していきます。海苔の生産は生育に適した水温の11月から3月後半まで養殖施設で海苔を育成させて、陸上の乾燥施設で板海苔が生産されます。



通常の海苔の様子 2021年



2022年 冷凍網の様子 色落ち

通常の海苔が最初の画像。
2022年冷凍網の一番摘みが次の画像です。
薄い茶色に近い色であるのがわかるかと思います。

「色落ち」と我々は呼んでいますが、海に栄養が極端にない状態で生育をさせるとこのような生のりの色になります。

美味しい海苔には多くのアミノ酸が含まれていることは以前読み物でもご紹介いたしました。

色の濃い海苔には、色素である葉緑素や紅藻素・藍藻素(光合成色素)がたくさん含まれていることがわかっていますが、これは旨味でもあるアミノ酸と深く関わっています。
海の栄養である窒素・リンが不足していると光合成で作られた糖類からアミノ酸を合成する作用が十分に行われなくなります。

こうなると海苔は栄養もなく元気がない状態で生きていくのに精一杯な環境です。

つまり
・旨味の決め手である核酸(イノシン酸・グアニル酸)やタンパク質
・黒色の決め手である光合成色素

海の栄養不足でこれらの生成まで手が回らないで、植物体の保持に少ないアミノ酸が優先的に使われてしまう。というのが、海苔の色調低下=色落ちにつながり、あまり旨味のない品質に仕上がってしまうというサイクルです。

本来であればこのような海苔が収穫されるのは4月に近い時期で収穫されるべき海苔がこういった色落ちした海苔なのです。

アリアケ水産 古賀さんから写真提供いただきました、ありがとうございました。



乾海苔の段階での色の様子

上記の写真はまだ焼いていない乾のり。

上から通常→だいぶ色落ち→完全に色落ちした海苔の写真です。
実は一番上の黒黒しているように見える御海苔でも当店で提供する基準のグレードとしてはギリギリの基準になります。

当店では下2つのグレードの海苔の加工販売をした経験はございません。
実際にこのような状況に一番頭を悩ませていたのは海苔漁師さんだったと思います。
海に栄養がないという状況を改善する唯一の方法が「雨」なので、お天気に頼る他ないのです。

そのため海苔漁は自然との対峙となります。

地域によってこの生産方法に微妙な違いがあり、それぞれ工夫を凝らして全国で海苔生産を行なっています。

私自身10年前ほどから直接アポイントを取って、海苔の生産者さん=海苔漁師・海苔師さんを訪問し、生産現場を拝見させていただくということを繰り返し行っております。

 


 

次章では海苔の生産の様子なども交えて、2023年に伺った佐賀福岡について現地でのインタビューも含めてお伝えしてまいります。

中編へ続く >>

 

美味しいお海苔といえば! 築地 伊藤海苔店

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